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「お、お疲れ。ビックリした」
抱き付きはしないが、すぐ
に駆け寄った。
「フフッ。早く終わったから
迎えに来てみたんだ。純平君、
傘持たなそうだしね」
スーツ姿の牧村は、この場
ではかなり浮いている。だが、
優しい微笑みで見下ろされ、
ごく自然に傘を純平に傾けて
くる紳士ぶりに、純平は見惚
れてしまう。
「傘……持たなくて正解かも」
そんな馬鹿なことを口の中
で小さく呟いてしまうのも、
恋心故だと自覚があるので頬
が熱くなった。
「一緒に帰ろう?」
その甘い誘いに、純平はこ
くりと頷く。牧村が“行く”
と言えば、行き先は純平の住
むぼろアパートだ。“帰る”
と言えば、牧村の家を意味し
ている。それが解っていて頷
いた。
二人きりでまったりと――
純平も牧村も思うことは同じ。
それが互いに伝わっていた。
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