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繁華街のいつもの人混みは、
少しだけ模様を替える。
色とりどりの傘が歩道を埋
め、互いにぶつからないよう
にと、行き交う人々の距離は
傘のぶんだけ空いている。
そんな中――純平は人知れ
ず心を踊らせていた。
チラリと視線を向けると、
傘を持つ大きな手があった。
駅までの歩き慣れた道を、
恋人である牧村と肩を並べて
歩くのも今となっては珍しく
はない。
いつもの歩道、いつもの微
笑み……少しだけ違うのは、
互いの距離。傘のぶんだけ近
いのだ。
「肩、濡れてない?」
優しい声は傘の中で僅かに
反響する。
「大丈夫……です」
だいぶ敬語を使わなくなっ
たが、こういう時はつい出て
しまう。意識してしまってい
るからだ。
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