『 雨 』

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    傘の中がちょっとした個室  に思えてきた純平は、またち  らりと牧村の手を盗み見た。  「……」   ギターを弾き続けてきたせ  いか純平の手には特徴がある。  弦を押さえることで指先の皮  は厚く硬くなり、指自体も長  くなる。演奏者としては努力  の証と言ってもいいが、男と  しては牧村のような手に憧れ  てしまう。   牧村の手は厚みがある。筋  ばっていて無骨そうに見える  が、触れられるだけで安心感  を与えてもらえる頼もしい手  だ。   純平の頭には牧村の言葉が  離れなかった。  (俺だって、握りたいよ……)   重なる手が熱く感じる。そ  っと小指を浮かせ、牧村の小  指に寄り添わすと、またクス  リと小さく笑った牧村の手が、  より強く純平の手を握った。
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