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「“大ピンチ”は事なきを得たらしいな」
「ブフッ! 大きな犠牲を払って、な」
知らぬ者からしたら、青天の霹靂と呼ぶにもまだぬるい。
それほどまでに心証的にも現象的にも衝撃であったもも子のおならであるが、その割に校内の皆の反応は慣れたものであった。
それもその筈、おならなど毎日出るもの。
幾度となくこの聖なる学び舎においてそれを不本意でこそあるが悪戯に汚すような行為を繰り返していれば、どんな大災害でも他の生徒達にとっては日常茶飯事にとてなる事であろう。
この“おならの異常なまでの強さ”。
それこそがもも子の名を“大ピンチ”という渾名と共に校内に轟かせている原因であり、また繊細な思春期の年頃であるもも子の純真を悪戯に弄んでいる悩みのタネであった。
ガチャっ。
「……」
鍵を開け、個室の扉の向こうから事を済ませたもも子が再びその姿を現した。
体が楽になった分顔から蒼白さは消えてはいるが、さすがに自分が為した事の大きさを噛みしめているのであろう。
目線は下がり、どんよりとした陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
(ハァ……。またやっちゃったわね……)
自身のおならの勢いに頭を抱えるもも子。
直接的に被害を被る周囲の生徒は勿論の事、放ち手であるもも子もまた、そのおならに心を傷つけられる犠牲者の一人であった。
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