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「治るかも知れんぞ?」
「!?」
その扉を開けた途端、どこからともなく謎の声がした。
声色からするに男性。だが、どこから聞こえて来たのかわからない。
「……?」
知らない男の声の発生源を探るため、もも子は尿意を抑えて辺りをキョロキョロと見回す。
この時間の家にはもも子の他に誰もおらず、またテレビやラジオがついているわけでもない。
声は明らかにもも子の独り言に応答する内容であった。
すなわち声の主はもも子のすぐそばの誰かという事になる。
しかしここは他に人のいない家の中、ましてや狭いトイレの中だ。人が紛れ込んでいるとは考え難い。
「もう一度言う。キミのおなら体質、治す手立てはある。但しそれは、そう簡単にはいかないがな」
首を傾げるもも子の耳に、再びあの声が聞こえた。
幻聴の類ではない。誰かがもも子の悩みを知り、それに助け舟を出さんと訴えかけているのだ。
「誰よ!?」
不審者か何かだと推察したのであろうか、もも子は声を荒げて謎の男を探す。
いきり立つもも子とは対照的に、謎の声の主は柔和に彼女を宥めた。
「怪しい者じゃない。私はキミにある“お願い”をしに来たんだ。まずは話を聞いてくれ」
声の主はもも子に害意を持っていないことをアピールした。
だがその姿が見えない以上、その言葉に説得力は薄い。当然もも子も彼を信用出来ていないようだ。
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