二十一歳、残業前

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二十一歳、残業前

工場の仕事は好きだ。 ベルトコンベアから流れてくる製品を夢中で組み立て、見送る。ぐずぐずしているとラインが止まる。見上げた電光掲示板に表示されている数字が点滅している。まずい。点滅は他のラインより遅れをとっているしるしだ。残業したくなければ作業スピードをあげなくてはならない。周りの空気がピリピリしてきた。 私だって残業はいやだ。今日は楽しみにしていた漫画本の発売日だ。何としてでも定時で上がってやる。 それでも私は工場の仕事が好きだ。 少なくともライン作業をしている間は人と会話をしなくて済む。気配りや愛想笑いをしなくて済む。なんで私は飲食店なんかで二年も働いていたのだろう。本当に時間を無駄にしたと思う。もっと早く気づけば良かった。 派遣スタッフとしてこの工場に勤務して二年。私はどんな作業でも黙々とこなし、新人社員からは恐れられる程の存在にまでなっていた。それは私の陰気な性格のせいでもあるのだろうけど、すこぶる快適だ。私は職場でじゃれあう友人なんていらない。 気合いを入れて前髪を払う。製品を掴む。と同時に引き寄せる。電動ドライバーを握りしめる。 途端に警報音が鳴り響く。コンベアが止まる。
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