二十四歳、冬の朝

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「今日からお世話になります。パートで入った清水です。よろしくお願いします」 使い物にならない佐々木は走り回らせておいて、私は新人の教育とやらに専念する。 四年の月日は人を成長させる。ライン作業を黙々とこなしていた私が、いつの間にか派遣期間も終了し、直接雇用の社員となり、仕事を教える立場になっていた。あんなに人付き合いの苦手だった私が、だ。 「鈴木です。私も至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします……」 頭を下げかけた私に新人さんが声を上げる。 「あれっ?鈴木さん!?鈴木さんってもしかして中学一緒じゃなかった?」 「えっ」 「私、矢幡だけどわかる!?結婚して今、清水になっちゃってるけど」 「あ……。矢幡さん……」 「うわぁー!!懐かしい!!何年ぶりだろ!?鈴木さんすごいじゃん!!ここのラインのリーダー的な?」 矢幡さんの勤務初日の緊張感はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。人なつっこい笑顔で何かを捲し立てている。しかしそれは私の耳には入ってこない。私の過去を知る人が目の前にいる。よみがえる記憶。黒板に貼り出されていた私の絵。男子の笑い声。女子からの見下すような視線。いやだ。逃げたい。逃げたい。忘れかけていたあの頃の私の幼い感情。闇が黒い濁流となって溢れだす。いやだ。私はもうこんな波に飲まれてたまるか。私はあなたたちには二度と振り回されない!! 「あぁ、鈴木さんがいてくれて良かったー!!私さっきまでさー、怖いおばちゃん達ばっかりだったらどうしようってビビってたんだよねー。部材倉庫こっち?あー、良かったー。わかんないことは全部鈴木さんに聞こ」 心がまだ渦巻いている私をよそに矢幡さんは満面の笑みで真新しい安全靴を鳴らしていた。
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