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「遠慮なんかしなくていいってーの!!ほら!!早く乗って!!今ねー、ツタヤでyumaの新曲借りてきたんだー!!聴きながら行けるよー。」
「あの、でも……本当に大丈夫だから。」
「いいじゃん!!だって歩くなんて大変じゃん?」
「あの、大丈夫だから!!歩くのが好きだから!!歩きたいのっ!!」
追い詰められて動転した。久しぶりに大きな声が出た。とたんに須永さんは大きな目をキョトンとさせ、またあの珍しいものを見るような表情になった。
「……ふーん。そっかぁー。うん、わかったー。じゃあ鈴木さんまたねー!!」
「……ごめんなさい」
私の最後の呟きは須永さんに届いただろうか。
鼻歌を歌いながら車に乗り込み、手を振りながら走り去って行く須永さんを呆然と見送る。
須永さんに悪意が無いのは分かっている。
言葉通りに車で私を送ったらそのまま「じゃあねー」って帰るであろう事も分かっている。
でもどうしてもいやだった。
須永さんの車に乗って「yuma」とやらの曲を聴き、雑談をして打ち解けて、彼女が友達として私の家に遊びに来るようになる。なんてあり得ないはずなのに、それを想像してしまった自分がいやだった。
あり得ないでしょ。
須永さんが私と友達になんてなってくれるわけないでしょ。そんな恥ずかしい想像をした自分がいやになる。
彼女は私をいつも突き落とす。
だからキライだ。大キライだ。
もう彼女に近づくのは御免だ。
夕暮れの街はいつの間にか夜の匂いが漂いだしていた。
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