第1章

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    私はこうなる前、派遣会社に登録して働いていた。   電話に出たり、書類をファイルしたり。 そんな事務の仕事を毎日たんたんとこなしていた。   仕事が嫌いだったわけでもない。   けれど、好きだったわけでもない。   「贅沢よ。」母親の言葉は私の心の中をざわざわとさせる。   私は悪いことをしているの?   と、自分に問い、また、暗く沈む。   だめよ。そんなことあの子の前で言ったりしたら。   ねえ、知らないの? がんばれとか、怠けてるとか、   そういうのだめなのよ。   私の部屋の戸は閉めてある。けれど、   叔母の声はよく通る。   母は、同じ市内に一人で暮らす姉が来るたびに、   私のことを愚痴っている。裏表のない性格の、   叔母の答えは、私のいる部屋まで、よく聞こえる。         
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