第1章

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 ここにきてもまだ強気な態度を見せる俺も大したもんだと思う。でも本当に痛いからじゃない。優しいお前が気に病まないようにそれだけは伝えなくては。 「斎木さん」  彼の優しい手で涙を拭われる。こんな嫌なことを強制させられているのに、なんでそんなに優しくしてくれるのか。    でもそれが俺が好きになった高条なのだ。彼の最後の優しさが身に沁み、愛しさのあまりさらに涙が零れる。 「こんな命令をして本当にすまなかった」  そう詫びを入れ、必死に笑顔を作り微笑んだ。 「抱いてくれてありがとう」  これ以上の重い言葉はいけない、だから心の中で、『愛していた』という思いを込めて礼を言う。 「斎木さん……本当にあなたは……」  目を見開き見つめられるが、俺は早く彼を解放してあげようと彼の背に手を回し抱きしめ密着する。自ら腰を動かし彼自身を締め付けながら刺激する。  それに合わせるように高条もゆっくりと腰を動かしてきた。奥に当たるたびに甘い声が出てしまう。男の喘ぎ声なんて聞きたくないだろうが、高条が俺の声を好きだと言ってくれたから、それなら望まれるまま声を発しよう。  お互いの呼吸が荒くなり、時折高条も感じているような声が聞こえてきて嬉しく感じる。  本当に大好きだった、ありがとう。幸せになってくれ――そう願いながら、彼との最後の行為を身体に刻んだ。    次第に激しさを増す腰の動きに翻弄されてしまい、ついに終わりの時を迎える。    最後だから自分の中でイッて欲しいとの要望も叶えてくれ、終わりを迎え俺たちは強く抱きしめ合い、熱い精を解き放った。  高条に先にシャワーを使わせ、その間に身体の怠さを休ませる。    決心はついた、最後くらい未練を見せずに別れよう。泣きそうになる顔を両手でたたき気合をいれる。    寝室のドアが開き、髪をタオルで乾かしながら、腰にバスタオルを一枚巻いたままの姿で高条が入ってきた。その無防備な姿にまた目を奪われそうになるが、もうそういうのもしてはいけないのだ。 「シャワーありがとうございます。斎木さんは一人で行けそうですか?」 「ああ、もう大丈夫だ。心配はいらない。それより――――」  一呼吸開けて自分から切り出した。
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