第1章

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「今日はもう上がっていいぞ。無茶なことさせて悪かったな、お疲れ様。あ、鍵は玄関の靴箱の上に置いてある。ドアのポストに入れてくれればいいから、もう帰ってくれ」  できるだけ普段通りに接する。最後の別れくらい顔を見て言いたいが、平静を装う事なんかできる自信がない。目線を合わせずに「ありがとう、さようなら」と小さな声で告げ、シャワーを浴びに寝室を後にした。  シャワーを浴びながらいっぱい泣いた。本当に好きだった……こんな事をせずにただ傍にいられるだけでも良かったんじゃないかと後悔もした。でもこれから先、こんな思いを持ち続けたまま彼の傍にいるのはツラすぎる。もし彼にいい人が出来て紹介などされても祝福なんかできないだろう。だからこれで良かったのだ、と自分に言い聞かせる。  彼との行為の名残を洗い流すのは惜しかったが、そのままにしておくわけにはいかず、気分を一新させるために身を清め、誰もいなくなった部屋へと戻って行った。 「なんで、まだ残っている……」  リビングには帰ってもらったはずの高条が、なにやら深刻そうな顔をしてソファに座っていた。  もう十分泣いた。諦めもついたおかげで先ほどよりは冷静に彼を見ることができ、さっさと帰るように促す。 「斎木さん、さっきのさよならはどういう意味ですか」 「は? どういう意味って……」 「まさか今日の事に責任を感じて、会社を辞めようなんて思っていないですよね」 「……っ、別にそれをお前が気に病む必要はない。これは俺の問題だ」 「斎木さん!」  ソファから立ち上がり俺の方へ向かってくる高条から逃げるように離れる。 「いいからお前はさっさと帰れ!」 「いやです!」  高条の手に捕まり、力強く引っ張られソファの上に押し倒される。何を、と言おうとした途端、口付けされた。 「斎木さん、俺は本気であなたが好きなんだ」 「――――え? ちょっ、どういう……」  今さら何を言っているのだと高条に聞く。俺が泣いたせいで情でも生まれてしまったのだろうか。 「あなたのような人が俺なんか好きになるわけがないと、ずっと我慢していた。誘われていたのもただ遊びのようなものだと……。俺は本気だったから、きまぐれで触れてしまえば感情を抑えられず、きっとあなたを閉じ込めてしまいたいという衝動が生まれてしまう。だから懸命に拒んできた」 「高条……」
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