第1章

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 高条の前でそんな噂話をされている現場を見てしまったときは正直愕然とした。だが彼は『彼の実力を見てそう言っているのか? そうなるとお前たちの目は相当節穴だな。彼がどれだけ努力し真面目に顧客に対応しているのか、しっかり見てからそんなくだらない無駄口をたたけ』と擁護してくれ、庇ってくれた嬉しさもあるが、それよりも今まで彼に近づきたい一心で努力してきたことを見てくれていたことが嬉しくて、報われた気持ちになり隠れたところで涙した。    高条が部下になり気分を害しないか心配したが、彼自身も飛躍するために年下の俺に教えを乞う姿勢に、彼の真面目さとひたむきさにますます惹かれていった。    そして俺はそんな彼の行為を逆手にとって、なんとか手に入れようとしているのだ。    そんな彼が欲しくて、俺があからさまに誘っているのに、それでも彼は行動してくれない。    この真面目な男は、上司に手を出すなんておこがましいとでも思っているのだろう。時折感じる熱い眼差しに、今か今かと何度期待しただろうか。だけどその度に彼は自身に言い聞かせるように身を引くのまで伝わっているのにだ。    だからこそ俺から動くしかないだろう。いい加減、俺の方が限界なのだ!    接待の帰りに打ち合わせと称して二人で飲み、酔ったふりをして自宅に連れ込む。今までも何度か家まで送ってもらい、お礼にお茶を出すからと部屋にまで連れ込んだし、出張の帰りでは荷物が多いからと荷物運びで部屋まで連れ込むなど、はっきり言えば職権乱用もいいところだが、これまで何度も彼を連れ込むまでは成功している。    だが、結果が何一つない。    だからこそ今日こそ勝負をかける。もう待つのは止めだ――――! 「目がぐるぐる回る……気持ち悪い」 「もうすぐですから我慢してください」  エレベーターの中でもここぞとばかりに彼に抱きつき、必要以上に甘える。心配して俺の背中を擦ってくる手が気持ちよくて、俺はもっと擦ってくれと強請ってしまう。    普段から俺の我が儘を彼は文句も言わずに聞いてくれる。だから俺は甘えしまうのだ。調子に乗った俺は、徐々に態度まで偉そうになってしまい、王様気取りだ。それをわかっているくせに繰り返す自分がイヤになるが、こんな俺でも嫌な顔を見せず接してくれる彼の優しさが心地良くて、日に日に甘えに拍車がかかっていく。  
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