昭和10年末。

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 明かりを消してあるままとは言えまだまだ暗い宿の一室で、ユリネは不満げな表情と喜びの表情とを交互に浮かべている。 時刻は午前5時。 真冬の日の出はまだ遠い。  性別に関わらず、異性と同じ屋根の下しかも一つの布団にて一夜を過ごすことは、どちらか若しくは両者が覚悟を決めたことの証であろう。 ユリネの表情が猫の目のようにくるくると変わるのも、実はそのことと大いに関係があるのだ。  まず不満げな表情の理由は、陸攻が自分に指一本触れようとしなかったこと。 そして喜びの表情の理由は、今から3時間程前に聞いた、明らかに寝言ではない陸攻の言葉であった。 「…陸攻さん起きてる?」 「ああ」 「私って… そんなに魅力ない?」 草木も眠る丑三つ時。 お互いの背中越しに交わされた会話である。 ユリネの問いに対し、陸攻は速やかにこう答えていた。 「そんな暴言誰が言ったんだい? まさか、歌劇と現実の区別もつけられないあいつら…」
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