昭和10年末。

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「ワイのおとんはなリック君、元々は偉いさんお抱えの料理人やったんよ。 けど、おとんもワイもいつしかすっかり神戸が気に入ってなぁ。 偉い世話になったお役人さんやったけど、ワイが22歳の時お暇出してもろて帰化さしてもろたんや。 キャシーと所帯持ったんもその頃なんやで。 せや、その頃の写真見したる」 オラルト氏はそう言うや否や、陸攻の返事を待たずに棚の上に置かれた写真を陸攻に見せてくれる。 その写真には、当時出来たばかりの洋菓子屋グラスカステンを背景にして、若き日の夫妻が微笑みながら映っていた。
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