昭和10年末。

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 大阪城と同様に、姫路城にも陸軍部隊が駐留している。 昭和7年から約2年間満州に赴き、昭和9年に帰還した陸軍歩兵第39聯隊がそれであった。 もちろん姫路城の敷地を全て陸軍が使用している訳ではなく、歩兵第39聯隊が使用していない区域は、大正元年から公園として一般に公開されている。 そうでなければいかに海軍兵学校の生徒といえど、おいそれと姫路城には近付けないであろう。 だが公園であるが故人々の憩いの場として貢献しているのは確かであり、当然そこには娑婆と軍隊の垣根など申し訳程度にしかありはしなかった。  姫路城に着くなり、一行が大いに感動しつつ姫路城の散策を始めたのは言うまでもない。 三本刀に白鷺城をじっくりと見て欲しいのはもちろんだが、三本刀が珍騒動を巻き起こすであろう可能性を少しでも低くしたいというのもあった。 そんな中で古橋廣之進は、とある陸軍少尉を見かけるなり彼に声をかける。 その少尉の襟の色が黄色であった事から、彼が砲兵少尉である事が窺えた。 「北澤主将! 鹿屋二中柔道部の北澤主将じゃありませんか!」
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