昭和10年末。

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「! オイんこつば知っちょっとかおはん?」 「はい。 鹿屋二中が加世田中学に練習試合に来られた時に…」 どうやら廣之進は北澤砲兵少尉を知っているが、北澤砲兵少尉は廣之進のことを覚えていないらしい。 廣之進の記憶が正しければ、北澤砲兵少尉は廣之進より4歳年上の筈である。 つまり、廣之進が中学1年の時北澤砲兵少尉は既に最上級生であった事になるのだ。 また、廣之進は柔道部ではなく剣道部に籍を置いていたから、北澤砲兵少尉が廣之進を知らなくても無理はない。 「加世田中学? するとおはん、鶴田嘉幸(つるた=よしゆき)君の後輩やと?」 「はい。 鶴田先輩の家は私の実家と隣同士です」 「! そうやったとか! 鶴田君は元気ね?」 「はい。 中学を出たあとは南薩鉄道(のちの鹿児島交通)に勤めています」 共通の友人若しくは先輩の名が出た事で、北澤砲兵少尉と廣之進は急速に打ち解けてゆく。 やがて廣之進との簡単な近況報告を交わすと、北澤砲兵少尉はウナギ組一行に向き直り敬礼しつつ口を開くのであった。 「初めまして海兵生徒諸君。 帝国陸軍砲兵少尉、北澤森一(きたざわ=もりいち)だ」
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