昭和10年末。

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 楽しく尚且つ充実した時間ほど、まるで超特急のような猛スピードで過ぎてゆくものであろう。 気が付けばもう午後4時過ぎ。 すなわち陸攻とユリネは、かれこれ5時間にも渡りグラスカステン夫妻と談笑していた事になる。 やがて陸攻とユリネはグラスカステン夫妻と再会を約束しつつ、夫妻お勧めの日持ちする洋菓子をたっぷりと買い込んで、加納町二丁目電停から市電の客となるのであった。 一人で持つには明らかに大荷物であったが、陸攻若しくは陽光が持てばユリネの負担は最小限で済む。 「陸攻さん…」 「ん?」 「私たち、平佐衛門さんと梨璃香さんのような二人になりましょうね」 ユリネのその提案に、陸攻が何度も大きく頷いたのは言うまでもない。 そんな二人を応援するかのように、夕焼けが神戸市電の電車を濃淡のついた茜色に染め上げていた。
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