不思議の中へ。

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 明日の夜鹿児島港を発つ沖縄行きの船に乗るため、ユリネは省線神戸駅にて下関行きの夜行急行を待っている。 陸攻が下関迄送ると申し出たのは言うまでもなかった。  色々なことがあって、短いようでやはり短かったこの数日間。 ユリネの心は大きな満足感で満たされている。 …たった一つの不満を除けば。 そのたった一つの不満を諺に置き換えると、聞いて天国見て云々が一番しっくりと来ていた。 (幻滅とまでは言わないけど、正直がっかりしたわ。 幾ら同期で親友だからって、小林嵐山さんたら陸攻さんのことをアホだのクマだの海坊主だのと… まぁ、クマは私が一番先に呼び始めたのだけれどね。 それにしたって、人の頭をあんなに気安く叩かなくたって…) どうやらユリネは、陸攻の親友小林嵐山のことを、いつしかまるで錦絵から出て来たような好男子とイメージしていたようである。 そんなユリネにしてみれば、陸攻と嵐山にとって日常茶飯事であるやり取りが、まるで意地悪をしているように感じられたのであった。 幸いそれは、辛うじて人前で感情をあらわにしなくて済む範囲内であったのだが…
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