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取り敢えず、林太郎に「徳川家康にグラブジャムンを与えてはいけません」と注意しておこう。
徳川家康の様子を確認した俺は、ノートと鉛筆を持って新と合流する。
[ア]『新。このノートを馬鹿女のカルテとして使え。俺が風魔の里から戻るまでは、お前が馬鹿女の主治医だ。一日の水分量や、食事内容。馬鹿女の様子。馬鹿女を見てくれる隼人や徳川にも協力して貰い、少しでも変わった様子・気になる事があったらどんな事でも書き記せ。』
[新]『うん、分かった。』
[ア]『取り敢えず、今日から実行しろ。ノートを見ながら、隼人や徳川の言葉を踏まえて栄養剤を注射すべきかどうかを判断するんだ。』
[新]『毎日注射するんじゃ駄目なの?』
[ア]『駄目だ。人間の脳は楽を覚える。そうすると、体も怠けちまうんだ。顎を動かし咀嚼する・飲み込む・胃で消化しやすい状態にする・腸管から栄養素を吸収する・いらないモノは排泄する。この一連の流れを行わなくても脳にブドウ糖やその他の栄養素が届くと脳が学習したら、余計なエネルギーを消費してまで臓器を動かすという事をしなくなる。だからこそ、少量ずつでも食事をするという行為が重要になるんだ。水分も同じ。臓器が怠ければ、腎臓や膀胱の機能が低下する。だから、食事も水分補給もなるべく口から。足りなければ注射で補給。とにかく、脳ミソに楽を覚えさせるな。』
[新]『分かった。なんか…人間の体って難しいね。』
[ア]『だからこそ学ぶんだよ。人間が人間の体を診るんだ。そこに妥協や適当なんて言葉が存在するなど許されない。「医者は神じゃない」。この言葉をしっかりと心に刻みつけろ。「出来る事が少し増えた」・「知識が少し増えた」…だからといって自惚れるな。どれ程の知識を得ようとも、どれ程の技術を身に付けようと、俺達医者は…患者と同じ「人間」なんだ。そして、患者が完治したからといって自惚れるな。俺達医者がどれ程頑張ろうと、人間が元々持っている自然治癒力には敵わない。俺達医者は、あくまでも患者の治癒力が少しでも強く…早く働いてくれるようにサポートする為の存在だ。決して傲るな。決して自惚れるな。分かったな?』
[新]『分かった様な…分からない様な……。僕には難しいよ。』
[ア]『お前にもいずれ分かるよ。どれ程完璧な処置をしても、突然容態が悪化して亡くなってしまう患者もいる。それとは正反対に、もう手の施しようがないと無力感に歯噛みしていた数日後、突然状態が良好になったりする。人間の体は分からない事だらけだ。だからこそ、俺達医者は死ぬまで学び続けるんだ。』
[新]『…………僕…医者として生きるの…少し怖くなってきちゃった。』
[ア]『……………そうか。』
[新]『でも…患者さんが一人元気になれば、その患者さんを大切に思っている沢山の人達が笑顔になると思うんだ。だから…怖いけど…僕は父さんの隣に並びたいと思う。父さんと同じ道を進みたいと思う。』
そう言って、新は俺を真っ直ぐに見つめる。
[新]『僕…沢山学ぶよ。自惚れない。傲らない。でも…沢山の笑顔がみたいと欲張る医者になる。』
[ア]『人の生き死にに関わる仕事だ。覚悟は出来てるんだよな?』
[新]『…………今…覚悟した。「父さんがカッコ良いから」なんて浮わついた気持ちじゃなく、医者として、誰かの笑顔を…沢山の笑顔を見る為に。僕は…医者になる。医者として生きる。』
真っ直ぐな新の瞳を見ながら、俺は新の頭をポンポンと軽く叩く。
[ア]『俺なんぞより…お前は立派な医者になれるよ。俺が保証する。』
[新]『………父さんより…立派な医者?』
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