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[ア]『ああ。俺はさ…医者の家系に生まれたから、医者になる以外の選択肢なんかなかった。医者になるのが当たり前だと思っていたし、そこには覚悟とかそんなモンは無かった。「どうせ医者になるしかない」。そんな理由が先だってた。』
[新]『…………父さんは…医者になりたくなかったの?』
[ア]『なりたいとか…なりたくないとかじゃなくて…それ以外の道は許されなかったんだよ。』
[新]『でも…今は、医者として必死だよね。』
[ア]『そうだな。人の生き死にに関わる事で、俺の心構えが変わった。戦争を経験した事で、医者としての心構えが変わった。』
ある意味では、新にも医者になる以外の選択肢はないのかもしれない。
あの馬鹿が、新の記憶を医療関係に全フリしちまったから。
でも…それでも………
[ア]『俺は…その歳で、医者として生きる覚悟を持てる新を尊敬する。』
[新]『…………父さん。きっと…僕の覚悟なんて、まだまだ薄っぺらいモノだと思う。僕は、医者として、まだ何も経験してないから。だから…父さんがしっかりと、僕を医者として育ててね。』
[ア]『俺は基本放任主義だ。新が自力で学び、新が自力で経験を積むしかない。だが、必要な時には必ず手を差し伸べる。だから…俺が必要な時は、迷わず俺の所に来い。お前がいつでも俺を頼れる様に、俺は学び続ける。』
[新]『ふふっ。僕…いつまで経っても父さんを越えられなさそう。』
[ア]『すぐに越えるよ、新は。』
[新]『自信ないよ。』
[ア]『知識と経験を得れば自信に繋がる。医者は様々な判断をしなければならない。自信のない医者に、お前は自分の体を任せられるか?』
[新]『任せられないよ。怖いもん。』
[ア]『なら…張りぼてで良いから、せめて患者の前でだけは自信を持てよ。自信のなさを患者に悟られるな。』
なんて…服部が後頭部強打した時、激しく取り乱した俺が言えた立場でもないが……。
まぁ…あの時は服部の意識が無かったから、セーフという事にしておこう。
[新]『患者さんの為に、医者として自信を持って振る舞い…医者として、患者さんの為に傲らず…学び続ける。』
[ア]『そうだ。それが理解出来たなら、後はひたすら学び、経験を積むだけだ。ほら、まずは馬鹿女のカルテを作れ。』
[新]『父さんは?母さんのカルテとか作ってないの?』
[ア]『作ってねぇ。』
[新]『え?何で?』
眉を潜める新を前に、俺は返答に困る。
カルテというモノの存在を忘れていた…とか、言ったらマズイだろうか?
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