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昔々あるところに、与太郎という若者がおりました。 働き者の与太郎は、小さな畑に野菜を植え、田んぼに稲を植え、貧しいながらも細々と真面目に暮らしておりました。 ある春の日の朝。与太郎は田おこしの準備をしようと桜の木の下で、身支度を整えていました。もうすっかり花が散った桜は、緑色の新しい葉をまとい、さわさわと風に揺れていました。 与太郎はふと、ガリガリとおかしな音がするのに気がつき、手を止めました。 音の出どころを探ってあたりを見回すと、納屋とさつきの生け垣の間の暗い細道で何かが動いています。 「おや?」 それは一匹のきつねでした。 どこかで引っかけてきたのでしょう。後ろ足を大きな罠に挟まれたまま、何とかはずそうともがきながら引きずり歩いているのです。 「ありゃー、三郎どんの所の罠にやられたな?」 与太郎がこう思いましたのも、三郎どんはたくさんの畑を持つ地主で、あちこちで狸に畑を荒らされて困る、と何日か前に話していたのを聞いていたからです。
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