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「不二子さん、いや店長は?店長は火事ってどうなったんですか!」  刑事たちの顔は暗い。 嫌な想像が沸いた湯のようにボコボコと絶え間なく涌き出てくる。 嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! はっ、携帯、携帯。 ポケットから取りだし電話をかける。親と大学と不二子さん位しか入ってない実際業務用みたいなすかすかの電話帳から電話番号を取りだしコールする。 「もしもし!もしもし?」  コール音は延々なり続ける。 繋がった!話かけようとしたそらは留守番サービスだった。もう一度かけ直す。何度もかけ直す。何度目かでついに遮られた。 「もう、わかりましたから。里田さん、申し上げにくいことですが......」 「うあああああ!あーあーあー!」  聞きたくない、その先を聞きたくないから気づけば叫んでいた。 自分でも驚いた。声だけではなく、 不二子さんがいないという事実にこれだけ狼狽する自分に。 だってまさかそんな自分が平和な日本にいてしかもど田舎の片隅で事件や事故に巻き込まれるなんて思ってもない、映画や本という別世界の絵空事のことだと自分に降りかかるわけないと。 そしてそれにしても事実を受け入れたとしても親でも兄弟でも恋人でも子供でもない他人にこんなに揺さぶられるとも思ってみなかった。 自分は自分で思うような自分ではない。 冷静なのかわけがわからなくなっているのかもうごちゃまぜで意味がわからないまま、気付いたときにはママチャリに乗っていた。 いつも通る道が異様に長いような、凄く短いような。刑事たちの制止の声が聞こえたような遠い昔のような錯覚のような。 次の道を曲がれば店が見えてくるはず! かわりなく明かりが付いている、今頃だから朝のラッシュに一息ついて昼からの客に向けて作り込みしているはず。そしたら不二子さんが出てきてなんでこんな時間にいるのかとサボリを叱りながら拳骨が飛んでくるってのがいつもの、そういつものだよ、いつものなんだよ。 [いつも]はもうそこに存在しなかった
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