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 事件から一月、季節が変わり始めもう何もなかったことのように世間は動いている。とどのつまり、不幸な当たりに遭遇した、それだけのことだと思え。世間というよくわからない群体にそう言われているような、臭いものには蓋みたいな封殺する感覚がついてまわる。 そうだ、俺だって他人事ならそんなもんだろと忘れていた。どこかの国で食うに困って盗みをして撃ち殺されたなんて話は可哀想だけどよその国の話であって一個人、なんの所縁もない22の俺にどうこうできるもんじゃない。ニュースで強盗があったと報道されれば家じゃなくて良かったと思う人だっている。それで当然だ。当人がいなくなっても、いつまで核を撃たれたのを根にもってんだと思うし、地震なんて他にあたりようがないじゃないか。起きたらどうしようもないのにいつまで引きずるんだと冷たい目で見ていた。 だけど違った。関わったものからすれば何時までだろうと許せないのだ、忘れられないのだ、身近にいつも付きまとって離れないのだ。 そんな違和感をいつも感じながら過ごすようになった俺は、初めのうちこそ哀れみの声などもあったが、その内前より他人と関わることはなくなった。不思議と遅刻はしなくなり、寝付けないとか安息出来なくなったのも理由だが、普通にこなすことが自然になっていた。 そうして卒業してどこかへ就職するのかなと自分事なのに他人事のように感じていた。 おばちゃんは貯蔵用の冷蔵庫内で亡くなっていたらしい。炎に巻かれて咄嗟に入ったのではないかという警察の見解で、死因は焼死ではなく酸欠かショックが先だと検死結果を聞かされた。身寄りはなく俺もどうしようもないからそのまま近くの寺で無縁仏として葬られている。 あれだけ好かれていても死んだらそんなもんなんだ。余計人生なんてどうでもよくなっていた。 たまにあの時の方角刑事コンビは顔を出す。事件か事故かどちらか未だにわからず俺を尋ねてくる。疑われているのか慰めているつもりなのか知らないが。 大学が終わった後、そのまま帰宅して布団に寝転がり天井を見つめながらなぜだ、なんで、どうしてとぐるぐる考えが巡りまとまらないまま意識を失っている。そんな毎日。 そして焼け焦げていく自分、もしくは焼かれて悲鳴にならない叫びをあげているおばちゃんの悪夢で目が覚める。
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