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事を済ませた男は帰る。
そう、男だ。
停めておいた車に乗り込みイグニッションをかける。
セルの回る音、ゴウンッと起きた合図を響かせて振動が行き渡る。
「そう、そうなんだ。いわば車は停められている時は死んでいるようなもの、動くことで生き返る。首を絞められていて放された時の呼吸を取り戻そうとするような鼓動!
これだから車はいい!常に生死とは何かを問うてくれているのだよ。」
アイドル中に一人で車内にいてごたくを並べても仕方ないと男は我に返り、狭い道と広い門という工場にありがちなちぐはぐな入口で二度切り返し、ライトを点け、のんびりと流し始める。[始動は優しく]前戯は大切だと考える男のポリシーだった。
流れ始めるノクターン、事の終わりは緩やかに穏やかに音楽と車の奏でる音をワインの咀嚼のように噛み締めるのが男の実感だった。
ドオオォン!!!!
日常聴きなれない低く腹に響く音。
何だ!?と辺りが音のした方に注意をやる。
走行中の車の爆発。
カーブを曲がり損ねたわけでもなく、タイヤが空を飛んだわけでもなく、イニシャルが英字だったわけでもない、突然車が爆発して吹き飛んだ。信じられない、何事だと事態を理解した往来が騒ぎ始め渋滞が起き、辺りは喧騒に包まれた。
「はいー、完了の完了っと。」
「お前、もう少し目立たないで処理できないのか?」
「何文句いってくれてんのぉ?あんたがやったらもっと悲惨になるでしょうが?いや、飛散か?ヒヒヒ」
「しようもない言葉遊びだ。」
「おぃ、それを言ったら狩りをさせておいてそいつを狩らせてそれを刈る、こんなやり方の方がもっとしょうもないだろぉ?まどろっこしい」
「やむを得まい、そういう協定だ」
「ったく、用も済んだことだしもう帰る。」
呆れたものだと言わんばかりの素振りを見せてビルの陰に二つの影は、消えた。
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