第1章

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 会社に着くと、同僚達は口々に「退院おめでとう」と、わたしに言いました。 わたしにはそれが、とても薄っぺらなものに聞こえました。  同僚達との話もそこそこに、わたしは重々しい扉を開け社長室へ入り、社長の前に立ちました。 社長はわたしの姿を見つけると、皆と同じように「退院おめでとう」という形式的な言葉をおくり、また机のうえの書類に視線を落としました。  ありきたりな労いを無言で受け取り、社長の視線の先にわたしは辞表を置きました。 彼は一瞬おどろいたような顔をしましたが、またいつもの表情を作りなおして、「本当に辞めるのか」と問いました。 わたしは「はい」としか言いませんでした。 彼は「残念だが、きみがそう言うならしかたがない」と、しらじらしいセリフを吐いて、また書類とにらめっこを始めました。  わたしは、「今までお世話になりました。皆さんに、よろしくとお伝えください。ありがとうございました」と告げて、社長室を出ました。
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