起動

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「はぁ……」  これは死んだかな。    モンスターにタゲ(ターゲット)を捕られてるからログアウト逃げもできないし……。時間帯が時間帯なだけあって他プレイヤーの助けも期待できそうにない。 「はぁぁ……」  自然に漏れる二度目のため息。  そりゃ、ため息も出てくるさ。BBLのデスペナルティは装備品以外のアイテムとギル(金)の全損だから、睡眠時間を削ってまでこの迷宮区に潜った二時間が水の泡になるわけだ。  このゲーム――BBLに装備を作る楽しみを求めている俺にとっては、収集した素材アイテムが消えるのは、ゲームの楽しみがなくなるのと同義だ。 「はぁぁぁ……」  そのことを考えるだけでも三度目のため息が漏れる。逃げようにもこの迷宮区は行き止まりが多い【遺跡フィールド】  まだマップリングも満足に終わっていないここで逃げ回っても行き止まりに追い詰められる。っていう未来しか見えない。  貴重な睡眠時間をさらに削って結果がそれなら報われなさすぎる。  ……うん。ここは諦めよう。運が悪かったってことでさ……。いや、運は良かったんだけど。  ジェノロップス自慢の金に輝く金槌が黄色の攻撃エフェクトを纏ったところで、俺は静かに目を閉じた。  いくらここが現実じゃないといっても、このBBLはフルダイブ型のVRMMOだから、俺を潰そうと振るわれた巨大な金槌にはリアルな怖さがある。潰される自分を見るのと、潰される自分を体験するのでは全然違うからな。  そして、鈍い音と身体が浮いて落ちる感覚と痛みのない衝撃が俺の体制を崩す。いつもの攻撃されたときに起きる一種のダメージお知らせ信号のようなものだ。  さぁ、次に目を開ければ、拠点に設定している『小靄の町』特有の霧がかった景色に埋もれた木を基調とした建物が見えて、デスペナルティの確認を要求するウインドウが出てきている。  ――はず、だった。 「……へっ?」  
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