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何か足りないとは思っていたが、今日はオレンジか。わたしは黒パンをスープの中へ突っ込んで皿を片手で持ち、屈んでそれを掴む。何気なしに一瞥を入れてスープへまた口をつけ、しかし死角に何かがよぎった。わたしは飲むのをよして再度それを見た。
そのオレンジには、巧妙な細工がなされていた。しかしよく出来たものだ、相当時間をかけたに違いない。
掲げてみると、淡い光にオレンジの繊維部分が白々しく光る。王家の紋章が。獅子が猫を食らうというモチーフの施された、趣味の悪い我が王家の紋章が。
わたしは黒パンをスプーンかわりにしてスープをかき込み、今度はそのスプーンごと空いた口腔のスペースへ詰め込む。口を動かしたままもとあった場所へ食器を置きにいき、手には未だオレンジ、ベッドへ倒れ込む前に口のものを漸う嚥下し、身体を捻って仰向けに倒れ込んだ。
最後にもう一度オレンジを見る。微かに残る、皮ごとかじる。恐らく看守長の努力の賜物であったそれは、一瞬にして消失した。もっとも皮は苦かった。しかし、やはりろくなものではない。わたしは思わず舌を出す。繊維はもっといやらしいのだ。
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