英雄の盾

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 そんな訳で、本日わたしのすることはもう殆ど残っていない。排泄は暗くなる前に済ませたし、ただ例のごとくベッドの中央に座り、その頑強な扉のある付近を眺めている。そうして、ゆっくりと思惑へ嵌っていく。  追憶。  唾棄するべき代物だとわかってはいるのだが、こればかりは流石のわたしにも回避するすべがない。この闇と同じだ。わたしは今闇を見ている。それに抗い目を瞑ったところで、わたしの覗くのはなんだ? すなわち、逃れるすべはこの下界にない、わたし、曰わく。  ……気付けば大きなパラソルの下、白いテーブルに座り、余りに愛らしい幼女のわたしはニコニコ顔でそれを待っている。甘い紅茶に可愛らしい蝶々が誘われてくる。やがて姉君が、沢山のお菓子を運んできた。けれどその綺麗な化粧の下には、ひどい痣が何個もあるのをわたしは知っている。真向かいには、ひとつしか変わらないわたしの兄がいるけれど、やっぱりニコニコ笑っていて、急いでわたしは目を開けた。
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