英雄の盾

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「おーい、君、出番だよう、しっかりと今日も綺麗にしてあげてね? ほら、七十三番はお年頃なんだからねぇ?」  看守長が扉の向こうで指示を出す、と同時に、一人の若い男が灯りと箱とを持って室内へ入ってくる。早速わたしへ駆け寄ってベッドへと寝かす。持っていた箱から布巾を取り出し、様々な汁にまみれたわたしを丹念に拭く、素振りをする。そうしてあの奇妙な足音が離れていくのを確認し、そっと耳元で囁いた。 「……大丈夫ですか? 殿下……」  もっともわたしは口腔の乾ききっている為に答えられない。男はそれを察し、鉄瓶に入れられた水を口元へ持って行く。わたしがそれで口を脆弱に濯ぎ、力なく吐き出すのを拭き取ってもう一度。手慣れているのは、彼がこれまでに数百回も同じことを繰り返してきたからだ。彼はこの牢獄の下っ端で、わたし専属の後処理係でもあった。
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