英雄の盾

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 ここ最近は、外ばかりを眺めている。昼前の景色のゆらゆらと揺れるのは陽炎の所為などではなく、わたしがベッドにのぼって爪先立ちになっている為に、状態が振り子のように、一切にして安定しないからだ。  その狭い、いささか見づらい窓から一通りを眺めて変わりのないことを確かめると、わたしは振り向いて飛び降り、その固いベッドを椅子代わりにして座る。静かに着地したつもりだったが、薄い壁の向こうからたちまち怒号が飛び込んできた。ひび割れた声が肌を無意識にひりつかせ、しかし特に反応を返す謂われはない。ここに長いこと住んではいるがわたしは隣人を知らない。当然、隣人もわたしのことをしらない。隣人がわたしについて知っているのは、性別くらいのものだろう。人種は? 歳は? 乳房は大きいのかな?
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