英雄の盾

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 それはすなわち、きみがわたしを孕ませるということ。馬鹿な男だ、と思う。あの例のへんてこな騎士道精神とやらに相通ずるところがある。それでいてわたしは、彼のこの馬鹿さ加減が、何よりも可愛くて大好きなのだった。  彼は幾重かの射精ののちに、わたしへそっと倒れ込む。それから何時ものように、ぽつりぽつりと夢物語を語り出す。 「いつか、僕が君を救ってみせる」「そしたらこの国を出て、一緒に暮らそう」「誰もしらない素晴らしい世界が、おそらく外にはある」「そして僕たちは永遠に、幸せに暮らすんだ」「この暗闇は、いつか、きっと明けるから」  いつか、きっと、おそらく。わたしは毎夜のように繰り返されるその夢物語を聞き、昔のように、やめてくれ、とは言わない。何故ならそれは、彼だけが抱く夢物語だからだ。そうしてわたしは今、現実的にそれを聞いている。この夢物語を否定するということは、必然その夢物語を“聞かざるを得ない”わたしをも否定することになる。  そして、稀に自虐的なところはあるが、わたしは決してわたしを否定しない。故に、彼の夢物語もまた、断じて否定されるべきではないのだ。私は彼の美しい亜麻色の髪を撫ぜた。気付いた彼が、そっと微笑みを返した。
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