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「ゆっくりし過ぎてしまった。これじゃ怒られる」
彼は両手を使って起き上がり、それによってわたしは朝が近づいているのを知る。彼はわたしの唇と自らの唇とを最後に重ね合わせると、「愛してる」
急いで介護をはじめた。性器を入念に拭かれてワンピースを着させられ、抱っこされ、片手でシーツを変えられて髪を撫でつけられ、寝かされ、毛布を上から掛けられて、「ああ、忘れてた」
彼は箱から何ものかを取り出すと、わたしの手を毛布から出してその手に握らせた。
「焼き菓子。起きたら食べて。……ごめんね、こんなもので。次はいいもの持ってくるから」
彼はそう言い立ち上がる。別れの言葉を口にする。わたしはそれを、ただただ見ている。
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