英雄の盾

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 彼が扉を開けて行ってしまってからも、わたしはその体勢で焼き菓子を握りしめている。  ……次、次。  この感情を、わたしは自身へうまく説明することが出来ない。しかし、深く考え過ぎるのがわたしの癖でもある。  わたしは単純を志し、結果ひとつの答えへと辿り着いた。それは、大好きな姉君がたった一度だけわたしの頬を叩いた、その時の感情に恐ろしく似ていた。  わたしは焼き菓子を胸に抱き、目を瞑る、と同時に、隣人の床につくのがわかる。そんな中、鼻をくすぐるのは、やっぱり――  ――奇妙なほど性のかおりと融合した、媚びた薔薇のかおり。
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