英雄の盾

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 実に懸命な判断だと思う、と言うのも、一度こんなことがあった。ある日わたしがいつものように午睡をしていたら、あの一室に見張りが三人程入ってきた。わたしは多分にもれず徹底的に犯された訳だが、後日謝罪をしたいと言う由、しかもそれを切り出したのは、あろうことかあの看守長。  彼はわたしの一室へ入ってくるなり、周りをはばからず、虫が彼の背中を這うのすら気にせず目一杯に、床へつきそうなほどに頭を下げた。震えていた。今にも泣き出しそうな素振りで、結論から言うとそのあとに泣いた。今更言うことでもないが、この看守長は相当に頭がおかしいのだ。  彼は涙をぽろぽろとこぼし、咳き込んで鼻を噛み、それから「ほらっ! 君たちも来るんだよう!」と扉の向こうへ叫んだ。すると、六人の男が入ってきた、が、わたしは彼らの顔をしらない。わたしの知っているのは、彼らの持っている、一様に目から血を流した首の方だった。それも半分はしらない顔。もっともわたしの記憶も実はあやふやで、その時のことをあまり覚えていない。
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