英雄の盾

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 例の疳高い号令と共にその首は頭を下げ、「なんでこんなに酷いことが起こるんだよう」と、看守長殿はそう付け加えた。どの口で言ったのかは、未だにわからない。ただ「計算外だよう」ともさり気なく漏らし、この部分が如実に看守長の性格を物語っていると思う。彼は不測の事態をもっとも嫌うのだ。  そうして、わたしがここで犯されるのもきっと思惑の範囲外のことだろう。何故なら看守長は『わたしを連れてこい』と命令しただけなのだから。すなわち右の男が正解な訳で、わたしはその横顔を見て思い出した。右の男は、一番左で首を持っていた男とおそらく同一人物だ。あの時も、このように変な汗を掻いていたのだった。  左の男が盛大に舌打ちし、刹那乳首に痛みが走る。男は苦痛に歪めるわたしを眺め、それから引っ張るように手を離した。わたしの目には必然涙が滲むが、大したことではない。脇を掴まれながら、それでも毅然と口を結わえ、右の男が鍵を開けるのを待った。
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