英雄の盾

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 わたしはそうした風に頭を悩ませる隣人の空想の空想を冷笑し、ベッド下の読みの途中だったペーパーバックを取ると、寝そべりながら枕へ本を押し付けて擦り切れた文字を追う。些少な光に照らされる文字は目を離した瞬間にほどけて、今にも舞い上がってしまいそうな気配だった。だからわたしは瞬きすら殆どせず、ずんずんと読み進めた。今の時間しか、読めないということもある。唯一の小窓は東に面しており、昼を過ぎる前から、ゆっくりと、まるで今際の際の精神のように明度をおとしてしまうからだ。  瞬く間に中頃まで読み終え、これまでに見受けられた細工は些細なものが四つ、中核をなすものが三つ、筆者の文体が僅かに乱れたところで本を枕の下へしまう。きっと、仕掛けを終えて気でも緩んだのだろう。昼食の時間が、近づいてもいた。もっともこの一室に時計はない。つまり部屋の明暗によって差し図るしかない訳だが、幸いにして今日は晴れており容易に察することができた。
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