英雄の盾

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 わたしは席へ戻り、毅然と言い放った。 「お言葉ですが、看守長殿。人は人を呼んでおきながら寝などしないものです。それとも何か? 看守長殿は教えて頂かなかったのですか、母君に? ねえ、看守長殿」  これみよがしに辛辣な皮肉を込める。看守長はわざとらしく肩を震わせ、頭を抱えた。 「うわあ、君は本当に酷い女だよう、七十三番。特に、その『母君に』って言い方、怖気すら感じるねえ?」 「いえいえ看守長殿にはかないません。で」わたしはそこで一旦切る。話し過ぎた感すらある。 「今日は一体わたしに何の用です? 看守長は先日言っていたではありませんか? もうここに来ることはないねって? ご退院おめでとうって? あれは嘘だったのですか? 看守長殿?」  しかし、一度吐き出したら皮肉はとまらない。看守長はその問いには一切返さず、「眠ってなんかいなかったのにぃ」などと誰にでもわかるような嘘をついている。わたしは更なる攻勢に出ようと唇を舐め、「ああ、そうだったぁん」  しかし、その間隙に看守長は飛び込んだ。
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