英雄の盾

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 そのワンピースを持って全裸でゆらゆらと歩き、途中下手投げでその薔薇桶に投げ入れる。屈んでジャブジャブする。変えられて二日目の桶の水はいささか薄汚れているように見える、が元々ここは光が殆ど通らないので気の所為というほかはない。ここではわたしの髪も漆黒に見える。次に桶に立てかけてあった布巾で落ちもしない垢を丹念に拭き取り、おしまいに頭から突っ込んで髪を洗う。ちなみに順番は適当だ。まず体から、という通念は入って三日で消え失せた。  わたしは髪を横に纏めて絞り一抹の安寧を見ると、ワンピースを壁に貼り付けて乾かす。本当は叩きつけて乾かしたいのだが、うら若い乙女が乳房を揺らしながらあくせく動くのは滑稽だし、何より隣人の怒りを買うのは明白だ。その隣人はと言うと、どうやら息を潜めて何かにご執心らしい。姿が見えないので断言は出来ないが、まずわたしの予測で間違いないだろう。あちらの動向は丸わかりなのだ、わたしが裸で行水しているのを、あちらが完全に熟知しているように。  わたしは髪の水分をもう一度しっかりと切り、ベッドへと戻る。最近の気候の為に足元へ蹴飛ばされた毛布を掴み、定位置に腰を下ろしながら頭に被る。 そうしてワンピースが自ずから落ちるのをずっと待つ。定期的に看守が来る。わたしは毛布で頭と胸を隠す。別に見られたって構いはしないのだが、扉からこの一室までの歩数すら数え飽きたわたしに取って、これも大切な暇潰しの材料となる。看守はその小窓を開くと、二、三言下びたことを付け加える。わたしは黙する。看守もそれ以上何も言わない。去っていく足音のどこか軽快なのは、毛布の丈の短いのと、わたしが股を全開にして、指で性器を広げているからだ。
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