英雄の盾

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 隠していれば見せろとうるさい輩が多いし、そうなるとわたしのこの暇な時間が相手の暇潰しの余興となりかねない。しかしはじめからこうしておけば、自慰をしろとは言われても、少なくとも脱げと言われることはない。これが、わたしが五年間の入獄生活で得たひとつの知恵だった。  あまりに大っぴらにしているので、中には「おい、少しは恥じらいを持て」などと笑う看守も現れたくらいだ。全く、人の心理ほど馬鹿馬鹿しいものはない、付き合いきれない、ともわたしは思う。  そうしてわたしがもぐらの真似をしながら乾くのを待っていると、室内にも遂に末期が訪れる。わたしは漸く落下したまだ半乾きのワンピースを頭から被って、その間断なく闇から闇へと移りかわる姿をこの目に見据える。  ちなみに灯りも夕食も配給されない。灯りは自死が云々でとの看守長の言い分だが、どうやったら蝋燭一本で死ねるのか是非ご教授して頂きたいところだ、が、これはもちろんただの皮肉、あんな男と喋るくらいなら、わたしはその辺を彷徨いている甲虫に接吻した方がマシだ。  食事のないのは素直に難儀で、しかしその分朝食は美味しいし相殺ということにしている。わたしの身体は乳房と尻を除いて入獄以来殆ど変わっていないから、そんなに量を必要としないということもあるのだ、嬉しいやら、悲しいやら。
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