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曲は今ニコロの演奏したモーツァルトの無伴奏ヴァイオリンソナタ1番。
最初の1音目から、衝撃が走るような音だ。
総ての心をさらけ出したくなるような、聴いている者が叫び出したくなるような、メロディとは別の、音色そのものが陰鬱だ。
舞曲でありながら心を凍てつかせ、流麗でいながら、まとわりつく闇を切り裂いて進むような、聴いている人間が辛くなるような演奏。
一刻も早く演奏をやめてほしいと思う反面、地獄の業火を目の前に実際に見ているような、そしてそれを見続けたいと思うような、自分の精神の奥に隠されていた別の人格が覚醒するようなおぞましさ。
だが、演奏する姿は美しく、黒髪は流れるように揺れ、大きな手はおそらく10音以上を瞬時に捉え、長い指はいかなる重音をも危なげなく押さえ、弓は正確に角度を変えて弦を捉え、その演奏は鉄壁としか言い様がない。
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