1790年 イタリア・ジェノバ ニコロの部屋

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「ニコロ」 誰もいないはずの部屋のどこからか、彼を呼ぶ声がする。 空耳だ。と少年は再びヴァイオリンを顎に挟み、弓を構えた。 あと少し。この音階をうまく弾きこなせれば、続く8小節のフレーズを美しく続けられる。 だめだ。どうしても薬指が遅れてしまう。 頭の中のイメージは完璧なのに。 「あ」 つまずくように音が遅れた。16分音符を高速プレストで弾くためには、まだ自分の技量が足りないのか。 「ニコロ」 まただ。 屋根裏の小さな部屋。夜毎ロウソクに火を灯し、少年はレッスンに明け暮れている。 練習の時には誰も入って来ないように両親には言ってあるのに。 「誰?」 つい尖った声を出してしまった。
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