377人が本棚に入れています
本棚に追加
「ニコロ」
誰もいないはずの部屋のどこからか、彼を呼ぶ声がする。
空耳だ。と少年は再びヴァイオリンを顎に挟み、弓を構えた。
あと少し。この音階をうまく弾きこなせれば、続く8小節のフレーズを美しく続けられる。
だめだ。どうしても薬指が遅れてしまう。
頭の中のイメージは完璧なのに。
「あ」
つまずくように音が遅れた。16分音符を高速プレストで弾くためには、まだ自分の技量が足りないのか。
「ニコロ」
まただ。
屋根裏の小さな部屋。夜毎ロウソクに火を灯し、少年はレッスンに明け暮れている。
練習の時には誰も入って来ないように両親には言ってあるのに。
「誰?」
つい尖った声を出してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!