1790年 イタリア・ジェノバ ニコロの部屋

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ドアの方を睨むが、どうも声はそちらからではないようだ。 返事はない。 やはり気のせいだ。このところ疲れているからな。 ふう。とため息をつき、少年は再び弓を構えた。 休んではいられない。教会の演奏は2週間後なのだから。 右肘を上げた時、少年の眼の端に1人の男が映りこんだ。 「え」 ドアを開ける音はしなかった。 切妻になっている天窓は閉まったままだ。 第一、そんな高い所から入って来られるわけもない。 男は粗末なソファに座って、やあ、と手を上げた。 「だ、誰?」 「君、ニコロだよね?」 男は質問に答えずにニコロを指差し、小首を傾げた。 黒い髪に黒い瞳、服装も黒いコートに黒いパンツ、黒いブーツ、そして黒い皮の手袋。 上から下まで黒一色、闇のような男だった。
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