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ドアの方を睨むが、どうも声はそちらからではないようだ。
返事はない。
やはり気のせいだ。このところ疲れているからな。
ふう。とため息をつき、少年は再び弓を構えた。
休んではいられない。教会の演奏は2週間後なのだから。
右肘を上げた時、少年の眼の端に1人の男が映りこんだ。
「え」
ドアを開ける音はしなかった。
切妻になっている天窓は閉まったままだ。
第一、そんな高い所から入って来られるわけもない。
男は粗末なソファに座って、やあ、と手を上げた。
「だ、誰?」
「君、ニコロだよね?」
男は質問に答えずにニコロを指差し、小首を傾げた。
黒い髪に黒い瞳、服装も黒いコートに黒いパンツ、黒いブーツ、そして黒い皮の手袋。
上から下まで黒一色、闇のような男だった。
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