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レグバは最後の音を倍音を響かせるフラジオレットで伸ばしながら、優雅にお辞儀をした。
「うわ、わ、わ、わ」
ニコロはあまりの超絶演奏に椅子から転げ落ちた。なんて演奏だ。
「わ、分かった、スィニョール。コスタ先生に言われて来てくれた先生でしょ」
「コスタ先生?」
レグバはピッチが少し狂っている、と調弦を始めた。
調子笛も使わずに?ニコロはレグバの長い指を見つめた。
こんなに合っていなかったのか、と思うほどレグバは弦を巻き上げていく。
「違うの?」
「違う」
「じゃ?」
「ニコロ。一曲弾いて聴かせてくれ」
「う、うん」
さっきからこの男は何一つ肝心なことを答えてくれない。
そのくせ自分が来週サン・ロレッツォ大聖堂で演奏をするのを知っている。
いつもだったら、ニコロはこんな得体の知れない男の前で演奏する気にはならなかっただろう。
だが、あの演奏だ。もう一度あの妙技を見たい。
そのためには、この男の希望を聞き入れるのが得策かと思われた。
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