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「では」
ニコロはミサ曲、アニュス・ディを弾き始めた。
ミサ曲だけあって荘厳な曲であるが、モーツァルトらしい、きらびやかな仕掛けのたくさんある曲だ。
ニコロにとって、お気に入りの曲の一つだった。
「やめろ」
ほんのさわりの部分だけを演奏したところで、レグバは大きな声を出した。
「え?」
「他の曲はないのか?」
「モーツァルトはだめなの?」
「いや、モーツァルトが、というわけではない」
「じゃ何がいいの?」
「うーん、そうだな。サリエリの小品は弾けるか?」
「うん」
ニコロは弓を構えた。本当は、サリエリの曲は好まない。
可愛くて退屈だ。感情移入できないまま曲が終わる。
「演奏予定の、モーツァルトの無伴奏ヴァイオリンソナタ1番。
あれを聴かせてくれ」
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