1790年 イタリア・ジェノバ ニコロの部屋

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「では」 ニコロはミサ曲、アニュス・ディを弾き始めた。 ミサ曲だけあって荘厳な曲であるが、モーツァルトらしい、きらびやかな仕掛けのたくさんある曲だ。 ニコロにとって、お気に入りの曲の一つだった。 「やめろ」 ほんのさわりの部分だけを演奏したところで、レグバは大きな声を出した。 「え?」 「他の曲はないのか?」 「モーツァルトはだめなの?」 「いや、モーツァルトが、というわけではない」 「じゃ何がいいの?」 「うーん、そうだな。サリエリの小品は弾けるか?」 「うん」 ニコロは弓を構えた。本当は、サリエリの曲は好まない。 可愛くて退屈だ。感情移入できないまま曲が終わる。 「演奏予定の、モーツァルトの無伴奏ヴァイオリンソナタ1番。 あれを聴かせてくれ」  
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