僕は知っている、これは紛い物だと

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「どうしてだろうね。うん、僕はどうにもその白い肌に吸い込まれる。冷たく淡い碧眼が僕を透かす度に、電気が走る。分かるかな」 「……」 「うん。豪華で淑やかな漆黒のドレス、慎ましいフリル、カチューシャ。僕を放心させる髪。鈍く、冬の山脈で吠える狼のようでいて、のどかな草原に転がる羊みたいでさ。掬えば手から落ちる水に似て、軽くて、それでいて甘くて」 「……」 「豪奢なドレスから生える、色素の大半を捨てた肌。滑らかで、華奢で、細くて、頼りなくて、なによりも僕を生かすその手」 「……」 「所作が僕を叩いて、僕は悶える。目を細め、物憂げに伏せる横顔。初めて見る世界の光を湛えた睫毛。優しく、毛先が上を向く様は雨が晴れた朝に近い。目を広げ、甘ったるく見上げるその表情も僕を撫でる」 「……」
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