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黙ったまま、私はある方向を指差した。
それは、いかにも妖しいホテル街。
「ダメ!あそこは絶対ダメ!」
「何で?」
「ダメッたら、ダメ!」
口を尖らせる私の手をぐいと引っ張り、小野寺さんは歩き出した。
この意気地なし!
いつもは優柔不断のくせに!!
心の中で、小野寺さんを罵る。
引き摺られるように歩いていて、ふと気づく。
いつのまにか、二人で手を繋いでいた。
5年の付き合いの中、小野寺さんと手を繋ぐなんて初めてのこと。
今更ドキドキはしないけど、なんとなく照れ臭い。
いつもと違う二人の距離感。
だけど、日頃警戒している男性への嫌悪感など、全くない。
人々が行き交う夜の街を、二人、手を繋いだまま、すり抜けてゆく。
私は、前を行く小野寺さんの背中をぼんやりと眺めながら
やっぱり私はこの人に気を許しているんだな…
と改めて思った。
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