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「ごめん!強く引っ張りすぎた?」
私を上から見下ろす心配そうな眼差し。
「いえ…平気です」
「そ。良かった」
表情の変化をみせないように、自分を取り繕って応える。
私の中の異変には全く気付かない練習台彼氏。
ホッとした表情を見せて、するりと離れる手と身体。
身近に感じていた体温が風と共に去る。
それがどこか物足りなくて。
何よ、これ。何なのよ…
自分の感情と思考が折り合わない。
前へと進む小野寺さんの広い背中をじっと見つめれば。
ドクン…ドクン…ドクン…
いつもより大きく波打つ鼓動。
ともかくどうにか静めたくて、胸をトントントンと叩いた。
だけど、自分の意志に反して、ちっとも落ち着かない。
深呼吸して、天を仰げば、木々の狭間から届く眩い光。
眩しさから目を細め、改めて自分の前を歩く姿へ視線を戻す。
やっぱり変わらない心臓の痛さ。
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