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匂い立つ陽炎が消える頃になって、僕はパレットを畳んだ。
鞄から旧型の携帯電話を取り出して、着信を確認する。
やっぱり、メールの返信は、ない。
僕は小さくため息を吐きながら、画材を持って帰路につく。
そうだ。一週間前までは、僕の隣には彼女が居たのだ。
蜉蝣が好きだったのは、元々は彼女だったのだ。
全く、人の命も儚いものだ。
メールがこないのも当然。もう彼女は死んでしまったのだから。
僕は気がついたら、彼女を愛していた。いつか彼女にそれを告げたかった。
でも彼女はもういない。そう思うと、胸が満ちて息が苦しくなってくる。
どうか恋よ散らないでいてほしいと切に願うばかりだが、この願いも儚い。土に還る場所はない思いはただの廃棄物のようにぼくの胸を圧迫していた。
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