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Gravity
学生の頃、僕は物理という教科が嫌いだった。
重力とか、加速とか、回転の悪い僕の頭では、さっぱり理解ができなかった。皮肉なことに、僕は文系であったので、そんな話は理系に行った当時の親友から聞く程度であったのだが。
「重力によって物体が得る加速度は同一地点では同じなんだって!!」
今、僕の隣には、そんな物理の話を嬉々とする彼女がいる。
そして、僕と彼女は二人、サーカスに来ていた。
「……ふぅん……」
「啓ちゃんって、本当に物理が嫌いだよね」
青い服を着た道化に手を振りながら、彼女は不満げに口を尖らせた。因みにサーカスは人気がないのか客が殆どおらず、舞台に立つ役者の方が多いのでは、という具合だ。
「ごめん、僕、どうしても物理が苦手でさ……」
「でもさ、あの空中ブランコだって物理なのよ?」
彼女は天井から下がっている巨大な空中ブランコを指した。同時に僕の手が温かいもので包まれて、僕は一瞬だけ緊張してしまう。……彼女が僕の右手を握っていたのだ。
「手を伸ばしたら、あっちに行けそうよね……」
銀の空中ブランコは、暗い舞台の上に三日月のような弧を描き揺れていた。彼女の目は幼い子供のようにきらきらと輝き、魔法の国への入り口を発見した空想小説の主人公のようであった。
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