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サーカスからの帰り道。
彼女は出口で獣使いの少女から渡された風船を嬉しそうに持ったまま僕の車の助手席で眠っていた。確かに今日は早起きだったし、さっきのサーカスでは子供以上にはしゃいでいた。故に眠気が彼女を襲ったのも早かったらしい。
僕は海辺のコンビニで車を止めた。生ぬるい潮風がまた心地よい。コンビニで缶珈琲とミルクティを買って、彼女の横にミルクティを置いた。
眠気覚ましの為の、ただの苦い泥水(珈琲)を僕は薬を飲むように喉に流し込んだ。これで帰りも眠くなる心配がない。
ふと、僕は静かに眠っている彼女の顔を見た。
いつも近づいては離れていく……そう、さっきの空中ブランコのような手と感情を、僕は彼女に受け取ってほしいのだと思った。
僕は不器用だし、決して他人にモテるタイプでもないのだ。僕を好きだと言ってくれる彼女に対して、真剣に向き合うべきなのだ。でも、彼女はあの親友からも羨ましがられる程の美人だ。こんな僕が彼女と釣り合うのか、と心揺れることもある。
僕の心を強く引き寄せる力は今、あの暗い舞台の底の地面の中にあるのかもしれない。それならば、僕は息をのんで、目を閉じて、弱い心に鞭を入れてでも飛び出していくだろう。
彼女の全てを抱き締める為に。
僕は精一杯の力で彼女を抱き締めた。柔らかな香りが僕の鼻孔を擽る。
あぁ、僕の体も、この胸も彼女に惹かれているのだ。
彼女と一緒なら、僕は迷わずに何処にでも行ける。
僕は彼女の頬に軽く口付けをして、再び車のエンジンをかけた。
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